ハブプラス 2012年01月06日 純ネタ トラックバック:0コメント:0

 
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「おまたせー!それじゃあ今日はどこで一局打とっか?」


大人しめな服装で颯爽と待ち合わせ場所に来たハブは、いつものように変わらず頭脳明晰そうな鋭い光を宿した眼差しと、少し照れた身振りで、夏の匂いの混じった穏やかな風を受けてよろつきながら、はにかんだ笑顔で聞く。

昨晩降った雨の匂いが鼻を通って、不思議な官能の記憶をくすぐり始める。







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「やだー、今絶対いやらしいこと考えながら打ってたでしょー!分かるも~ん!」


「ハハハ、こりゃまた王手取られちゃったかな」
おどけてそう言う僕に、子供のように無邪気な笑顔を向けながら、ハブはくすぐったい感情を何処へ向けていいのやら困ったような仕草を見せて、将棋盤と僕とを交互に見ながら、微妙に顔を赤らめた。

二人の会話が途切れるとほぼ同時に、セミたちが責めるように一斉に鳴き出した。
しっかりと綺麗に着こなしたスーツとネクタイが眩しく、僕に異世界へと飛ばされてしまいそうな感覚を植え付ける。







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「こ、これは、二人が初めて指したときの、あの将棋盤…、覚えてて…くれたんだ」


そう言うとハブは、将棋盤の上に乗っていた王将を手に取る。
そう、僕が初めてハブに取られた時の、あの王将だ。
ハブの扇子を持つ手が少し震えている。

懐かしみと、感謝に似た念を、王将に注ぐかのようにハブは手元に視線を落としていた。

もうすぐ夏が終わる。
やがてセミたちはまるで初めから存在しなかったかのように姿を消し、木々は赤く染まり、葉は落ち行く。
しかしそれは終わりへと向かうのではない、次なる季節の喜びに満ち溢れた、生命の慟哭でもあるのだ。

僕は思い出の王将を持つハブの手に、自身の手を上から重ね合わせながら、そっと二人で王将を包んだ。
二人でその手を前方へと上げ、一緒に「王手」と呟いた。

爽やかな夏の風が、そっと吹き抜けた。

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