ゲレンデが溶けるほど恋したら多くの人々に多大な迷惑がかかり、時には刑事責任も問われる 2011年03月25日 妄想 トラックバック:0コメント:0

営業という仕事の経験が全くないことで有名な僕ですが、そんな僕でもセールスというお仕事の厳しさ、大変さ、重要性は想像に難くないのです。
物を売るとは、話術や人心把握術、行動力、商品や顧客への熱意などが揃って、初めて軌道に乗るのでしょう。

それを考えても僕にセールスは向かないし、無理に近いのではないかと思う。
だって急に「明日から笑点のメンバーを売ってください」とか言われても途方に暮れる以外にない。
普通の商品一つ売ったことのない僕なのに、いきなり笑点のメンバーを売るだなんて…。

そして大量の笑点メンバーを抱えて街に繰り出す僕。
こんなものどうやって売ればいいんだ…、と早くも泣き出しそうになった僕の目に映るは、満面の笑みの歌丸師匠。
しかし売らなければ会社には帰れない、進むは地獄されど戻るも地獄。


やがて意を決した僕は閑静な住宅街へと赴き、裕福そうな一戸建ての家のインターホンを鳴らす。
インターホンからは「はーい?」と小鳥の囀るような30代前後のご婦人の声が飛び出してくる、緊張感が増す。
僕は日ごろから練習していた満面の笑みと、透き通るような美声を以てはきはきと話し始める。

「こんにちは、閑静な昼下がりに失礼します奥様!わたくし本日奥様に大変お役に立つものをご紹介させていただきたく思いまして、訪問させていただいた次第でございます!カモン奥様、レッツカムヒアー!」

すると奥さんの声のトーンは明らかに下がり、申し訳なさそうな様相を帯びた声色で応える。

「あ、セールスですか?あの、うちはそういうの間に合ってますんで…」

「いや、違うんですよ奥様!もう全然違う!笑っちゃう!奥様が今まで会ってきたセールスなんかとはもう根本的に違うんです!今日はもうすごいですから!素晴らしい商品をお持ちしておりますから!もう奥様軽く失禁しちゃいますこと請け合いでございますよ!さあ、奥様レッツカムヒアー、アンド、ジョインザパーチー!」

沈黙の後、扉をわずかにキィーと鳴らしながら、歳の頃20代末ほどの主婦が怪訝な表情を浮かべながら出て来た。

「それで、その商品って言うのは一体どのようなものなんですか?」

「はい、本日奥様にご紹介いたしますのはこちら、笑点のメンバーでございます!!」

次の瞬間奥さんは馬のような速さで踵を返そうとする。
僕はそれを懸命に止めようと試みた。

「違うんです奥様!この笑点のメンバーはそこらへんの笑点のメンバーとはもう全然違うんです!」

「いやよ、私前に笑点のメンバーテレビで見たけど、あの人たちってなんかすぐに上手いこと言おう上手いこと言おうとしてくるでしょ?私ああいうの苦手なのよね。あの歳ですごく前に前に出ようと必死じゃない?それで何を言うのかと思えば『一度でいいから見てみたい、嫁がへそくり隠すとこ』でしょ、やんなっちゃう」

「はあ、確かにそれは正直ありました、従来の旧型メンバーではそれも否めなかったんですが、新作は違います」

「具体的にどう便利なの?」

「まず歌丸師匠の乳首がボタンになっていて、右乳首を押すと『山田君死ね!』って言います」

「いらないわよそんな機能!!」

「ちなみに左の乳首を押すと『三遊亭一門全員病気になれ!あと山田君死ね!』って言います」

「どれだけ山田君憎んでるのよ!そんなのいらないわよ私!」

「まだです奥様、まだです。奥様、息子さんや娘さんはいらっしゃいますか?」

「いますわね、二人ほど」

「それは良かった!実はこの笑点のメンバー、お子様の学習にも大変強い味方となってくれるんです!」

「本当ですか!?ちょうど私子供を私立の学校へ入れようと思って、塾にするか家庭教師にするか迷っていたところですの。これだけ多くの人たちがセットになっていたら、三人揃えば文殊の知恵とも言うし、さぞかし子供たちに効率的に全教科のお勉強を教えて下さるのね、あらやだ私買っちゃうかも」

「いえ、笑点のメンバーは基本勉強は全く教えませんが、勉強しているお子様の周りを円陣を組んで取り囲み、ジッと勉強中のお子様の顔を凝視しながら鎮座しますね」

「学習が進まないにも程があるわよ!!」

「しかもお勉強中のお子様の耳元でそっと上手いこと囁きますから」

「うちの子の人生が上手いこといかなくなるじゃないのよ!!」

「え、ちょ、まさかの食いつかなさですね、困りましたよ…」

「それで欲しがる世帯があると思った御社が恐ろしいですわ。他に何か本当に役立つ機能とかないの?」

「もちろん他にもたくさんあります!まず、夜布団に入っていたら歌丸師匠が勝手に布団の中に入って来ますし、小遊三さんと円楽さんが三日に一度くらい流血沙汰の殴り合いの喧嘩を起こしますし、木久扇師匠は基本的にあなたの銀行口座から勝手にお金を引き出します」

「全然笑えない笑点じゃないのよ!!もうそいつら解散しなさいよ!」

「ちょ、ちょっと待って下さい奥様!今なら特別キャンペーン期間でして、本日この笑点のメンバーを購入していただくと、漏れなく山田君が付いて来るんですよ!」

「あらやだそれはちょっと欲しいわね」

「そうでしょうそうでしょう!やっぱり山田君いるといないとでは違いますよね!」

僕は心の中でガッツポーズをした。
交渉を始めてからはや1時間の中で、初めて奥さんから良い反応を引き出すことが出来たからだ。

「私昔から笑点は基本あまり観なかったんだけど、山田君の類稀なる座布団運びっぷりには心酔していたというものよ。ところでその山田君、やっぱりいろんなものを運んでくれたりとかするのかしら?」

「はい、こちらの山田君は、基本リビングの床の上に俯き加減に座りながら『今までたくさんの座布団を運んできたが、俺の人生は何もかも事が上手く運ばねえ…』と泣きながら呟きます」

「なんでそんなネガティブなくせに、こいつも上手いこと言おうとしてくるの!?死ぬほど腹立つ!」

「あと、物とかびっくりするぐらい運びません、むしろ人に運んでもらうことの方が多いですね。タクシーとかも、ほんの数十メートルの移動距離でもバンバン使いますしね」

「もうただのバブル期を忘れられないおっさんじゃないのよ!いらないわよやっぱり!」

「そんな、待って下さいよ奥様!小遊三さんのこの悲しそうな目を見て下さいよ」

「知らないわよ、ただの上手いこと言いたがりの鬱陶しいおっさんじゃないのよ!誰が買うもんですか!」


そう言うと、奥さんは怒りに顔を真っ赤にしながらピシャリと扉を閉めてしまった。
その後いくつもの家を訪問したが、結局笑点のメンバーは一組も、それどころか一人も売れなかった。

会社に戻るわけでもなく、かと言って完全に自信を失くしてしまった僕は、その住宅街の中にある公園のベンチに座り、遠い目をしながら買ってきた缶コーヒーを空しくすすった、あまり美味しくなかった。

しばらく時間が過ぎ、そろそろまた次の訪問販売へと行かなければと、ふと足元に目をやると、大量の商品を詰め込んだカバンの中から、商品の一つである歌丸師匠と目が合った。

歌丸師匠はカバンの中から静かに言った。

「一度でいいから見てみたい、お前が商品売るところ」


「うるせえ」と僕は笑顔交じりに言い放ち、また住宅街へと消えた。

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