「お、奥さん、い、今何色のモビルスーツ乗って戦ってらっしゃるんですか、はあはあ…。」 2010年07月29日 妄想 トラックバック:0コメント:0

先日僕は自身の神の如きこの思考体系を使って物凄いことを考えついた。そうそれは、無限にお金を作り出すことのできる、まさに現代社会に残りし最後の錬金術といっても一向に差し支えのないものを。

そしてその方法とは、「ヒトデに多額の生命保険をかけ、その後にヒトデをちぎっては増やしちぎっては増やして個体数をどんどんと増やし、やがてヒトデを一体ずつ何気なしに東尋坊へとドライブに誘い、崖から突き落として事故死に見せかける」という一連の簡単な行為である。

これを繰り返すだけでなんと、たまに少し車を遠くまで走らせる手間と少々の罪悪感さえ覗けば、簡単にかつ最小労力にて多額のお金をいつでも稼ぐことが可能となる。もちろんこの多少めんどくさい工程を初めに我慢して一生懸命に繰り返せば20代前半で一般人の生涯賃金の軽く数十倍を稼ぎ終わってしまうことも容易く、その後若くして軽井沢を初めとして、石垣島、那須高原、芦屋、田園調布、青山、もちろん海外の様々な名所に別荘を全て建て、自由気ままにお金の心配など一切なく、残りの人生を謳歌することすら可能だということを表すのだ。

この誰もが思いつきそうでどうしてなかなか思いつくことが出来ない錬金術を思いつけたのは、二つの事実を結びつけんとする着想、この一つに集約できよう。そうつまり、「ヒトデはちぎったらすぐに修正してちぎった数の分だけ元のヒトデに増える」という生物学上の知識と、「生命保険金をかけられている生命が亡くなると多額の保険金が給付される」という余りにも基本的かつ周知の金融知識の二つの事実を結びつけるというこの発想。


僕はこの方法を知ってからというもの何度も何度もこの行為を繰り返しては大金を儲けた。得た金で毎晩六本木に行っては女性たちと楽しいひと時を過ごし、そして何とあろうことか大手回転寿司チェーン店にて普通ならば一皿100円のお寿司が流れる中、当然という顔をしてキャンペーン中の極上一皿200円の割り高寿司に手を伸ばす始末。隣の家族席の子供たちも両親さえも指をくわえて羨ましそうに僕が一皿200円もする神の領域の寿司を頬張るのに見入るのだ。しかも一人席に一人でこれをやられると来たら周りの客も堪ったものではないというもの。同じような大盤振る舞いは留まるところを知らず、100円ショップに例外的にある一つ315円の変な観葉植物を買う、買ったばかりのヒートテックインナーをその場で下半身にだけ履き、公衆の面前で江頭2:50の物真似をし出すなど、文字通りやりたい放題であった。彼は完全に腐っていた。

そのような最早悪行にも近いぐらいの羽振りの良さを見せつけていれば当然怪しむ者が出て来てもおかしくはないことに気付くには、その時の僕は余りに若く、そして狡猾性という性質を欠いていたと言えよう。

ある日もヒトデを東尋坊に連れて行く前の下見として、その惚れ惚れするような断崖絶壁を注意深く観察していた時のこと。その男は急に僕の背に鋭い言の葉を投げかけてきた。

「あんただろう?このところ急増してる連続ヒトデ不自然死事件の真犯人は。」

背中に冷たいものが冷やりと、いや、まるで刃物で突き刺されたかのような戦慄にも似た衝撃が走った。なんと振り向くとそこにいたのは船越英一郎であった。彼のサスペンスの匂いを嗅ぎつける能力たるや、数キロ離れた獲物がわずか数滴の血を流したのみで直ぐさまその位置を嗅ぎつけるというホオジロサメの如きと言われるあの有名な船越だったのだ。

「え、ええ、なんのことですかねえ、僕はヒトデなんか知らな…」

そう言いかけたところで船越は僕の言葉を遮るように続ける。

「言い訳などできるはずもないでしょう。何せその被害ヒトデ本人から証言が来ているのですから。」

またしても僕の背中に衝撃が走る。しかしその衝撃は先ほどのそれよりもずっと冷たく、怪しく絡みつくような、言い様のない程に嫌な不快感を帯びているものだった。

「そ、そんな、まさか、何言ってるんですか、死んだヒトデが証言なんて出来るわけが…」

「死んで…いなかったとしたらどうですか?」

「!!!」

僕は自分自身でこの儲け方法を儲ける根拠としたある一つの点を見事なまでに見落としていた。そう、ヒトデは万一ちぎれてしまってもやがて再生する。海に落ちたことで溺れてそのまま海の藻屑となろうにも元から海の藻屑に準じるような生き物でもある。堅く握られていた僕の拳は次第に緩くなってゆき、力なくその拳は解かれた。どれ程考えようが、罪を否定する言いわけなど思いつくはずのないことが自明であったためだ。海面の上では相も変わらず白波が轟々と音を立てて生まれては消えてゆく。綺麗だなと思った。

「そうです船越さん、僕がやりました。僕の中の真っ黒な野心が、醜く汚い暗黒を彷徨う野心がそうさせたのです。ははっ、おかしなものですね。ヒトデの再生能力を利用した保険金詐欺だというのに、その再生能力によって足が着くなんてね。許せなかったんです。なんか星型で神秘的で再生能力まで持ち合わせてる、しかも水族館の触れ合いコーナーでは、大して動かないし全く鳴かない割には子供たちに大人気の、そんなヒトデたちが憎かったんです!そしてそれに準じる第二の理由として、幼い僕を捨てたあの憎き両親を見返してやりたかったんです!」

船越さんは何かを悟ったかのように大きな溜息をつき、ゆっくりと身を翻して反対方向に歩み出した。

「…とは言っても先ほど言いましたように、死んでいたと思われていたヒトデたちはみんな実は死んでなどいなく、単に母なる海へと返って行っただけなんです。しかし保険金詐欺のこともあるしな、あ?あ、真犯人は一体誰なんだろうか。ヒトデを突き落とす現場を見たわけではないから全く見当もつきませんよ。」

「!!」

船越さんは僕の罪を見逃すつもりだった。すでに保険金詐欺の自白をしたはずの僕の罪を。それに気付いた僕は船越さんの背中に向かって深く深くお辞儀をして小さな声で「すみませんでした…」と呟いた。船越さんは背中を向けたまま右手を大きく上げて、立ち去りながら僕にこう言った。

「↑野さん、人間とはやり直せる生き物です。何度でもやり直せるのですよ。何度人生を踏み外しても、どれだけ挫折を味わおうとも、どれだけ空虚に苛まれても。そこに強い意志があればね。それどころか、ここが面白いところなんだがね、そういう人生を揺るがすようなことが起こるたびに人は強くなり、自分の中に昨日までとは違う新しい自分をどんどんと作り上げていくんだよ。そう、それはまるで、何度ちぎられてもちぎられても再生するどころかその数をどんどんと増やしていく『ヒトデ』のようにね。」



僕は「このおっさんいい歳こいて何言ってるんだろう超気持ち悪いんですけど…」と思ったところで目が覚めた。

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